【ポップスの教養を深めたい方へ】知的な遊び心が学べる名盤『JESUS OF COOL』を紹介

音楽レビュー
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ちゃちゃ丸

音楽コレクター歴25年、CD/レコード保有枚数2,500枚超|70年代パンク・ガレージロック専門|40代会社員として働きながら、マニアックな名盤から隠れた良盤まで実際に購入してレビュー|「次に聴くべき1枚」を探している音楽ファンのために、忖度なしの本音レビューをお届けします|愛犬:アメリカン・コッカー・スパニエル

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ジャケットデザイン

1978年、パンクが音楽シーンを覆い尽くしていた時代のことです。

多くのバンドが過激さを競う中、ニック・ロウは別の道を選びました。

彼が提示したのは、知性と遊び心を兼ね備えたポップスでした。

プロデューサーとして、Elvis Costelloやダムドを手がけた男。

その初ソロアルバム『JESUS OF COOL』には、すべてが詰まっています。

鋭い批評眼、確かな技術、そして軽やかなユーモア。

発表から45年以上が経った今も、この作品は色褪せません。

なぜ多くの音楽ファンが、本作を「一生物」と語るのか。

その理由を、本記事で丁寧に解き明かしていきます。

CD版:Pure Pop for Now People
※2008年リマスター盤がおすすめです。UK盤とUS盤の両方の楽曲に加え、10曲のボーナストラックが収録されています。

LP(アナログ盤):PURE POP FOR NOW PROPLE
※アナログ盤は、2008年以降の180gリマスター盤がおすすめです。温かみのあるサウンドを楽しめます。

音楽スタイル

  • 音楽ジャンル:パブロック、パワーポップ、ニューウェーブ
  • 音楽的特徴:60年代ポップスの明快さを、70年代後半の感覚で再構築しています。短く整理された楽曲構成と、抜群のメロディが特徴です。一方で、歌詞には皮肉と知性が込められています。
  • 類似アーティスト:
    • Elvis Costello – プロデュースを通じて共鳴した知的ポップ性が共通です
    • Graham Parker – 同時代のパブロックを代表する熱量が近い存在です
    • Rockpile – 本作の演奏陣として、サウンドの核を担っています

この作品のおすすめポイント3選

① ポップスの引き出しをすべて開けた構成力

ロックンロール、パワーポップ、ミニマルな楽曲まで網羅しています。

曲ごとに表情は違いますが、全体には強い統一感があります。

ソングライターとしての懐の深さが、自然に伝わってきます。

② UK盤とUS盤で楽しめる二つの編集思想

UK盤はライブ音源を含み、ラフな魅力があります。

US盤は構成を整理し、完成度を高めています。

同じ作品でも、聴き比べで印象が変わる点は大きな魅力です。

③ 時代を超えて通用するプロデュース

過剰な装飾を避けた音作りが、今も新鮮に響きます。

2008年のリマスター盤では、演奏の細部が明瞭です。

現代の再生環境でも、違和感なく楽しめます

作品基本情報

  • 作品名:JESUS OF COOL
  • アーティスト名:Nick Lowe
  • 発売年:1978年3月
  • レーベル:Radar Records(UK)/ Columbia Records(US)
  • 総再生時間:約33分(UK盤11曲)/ 約35分(US盤12曲)
  • 収録曲数:11曲(UK盤)/ 12曲(US盤)
  • チャート最高位:UK 22位(9週間チャートイン)/ US 127位

※フォーマット情報:UK盤とUS盤でタイトルと収録曲が一部異なります。US盤タイトルは『Pure Pop for Now People』です。

作品紹介

『JESUS OF COOL』は、ニック・ロウ初のソロアルバムです。

ブリンズリー・シュウォーツ解散後の集大成として制作されました。

当時の英国は、パンクが音楽シーンを席巻していました。

ニック・ロウも、その中心人物の一人でした。

スティフ・レコーズのプロデューサーとして活躍していたのです。

Elvis Costelloのデビュー作『My Aim Is True』も彼の手によるものです。

ダムドの『Damned Damned Damned』も同様です。

パンクの最前線にいながら、彼自身は過激さよりも完成度を選びました。

短く、覚えやすく、しかし中身は鋭い。

そんなポップスを、この作品で提示しています。

ジャケットで見せる複数の姿は、固定された像を拒む意思表示です。

ロッカー、スーツ姿、カジュアルな服装。

6枚の写真が、彼の多面性を象徴しています。

「PURE POP FOR NOW PEOPLE」という文字が、写真全体に散りばめられています。

UK盤は22位を記録し、批評家から高い評価を受けました。

特に英国音楽誌では、完成度の高さが強調されています。

音楽史的には、パンクとポップの橋渡し役とされます。

後のパワーポップやインディーロックにも影響を与えました。

US盤では宗教的な誤解を避けるため、タイトルが変更されました。

「Pure Pop for Now People」という、より直接的な表現になっています。

収録曲も一部入れ替えられ、アメリカ市場向けに調整されました。

それでも本質は変わりません。

国や時代を越えて支持された理由は、その普遍性にあります。

2008年には30周年記念盤が発売されました。

Yep Roc Records(US)とProper Records(UK)からリリースされています。

UK盤とUS盤の両方の楽曲に加え、10曲のボーナストラックが追加されました。

リマスタリングにより、音質も大幅に向上しています。

CD版:Pure Pop for Now People
※2008年リマスター盤がおすすめです。UK盤とUS盤の両方の楽曲に加え、10曲のボーナストラックが収録されています。

LP(アナログ盤):PURE POP FOR NOW PROPLE
※アナログ盤は、2008年以降の180gリマスター盤がおすすめです。温かみのあるサウンドを楽しめます。

おすすめトラック3選

① I Love the Sound of Breaking Glass

選曲理由:本作を象徴する代表曲であり、UK盤でもシングルカットされました。

無機質なリズムと抑制された演奏が印象的です。

ディスコビートを取り入れながら、パンクの緊張感を保っています。

日常の違和感を切り取る視点が、楽曲に深みを与えています。

「破壊音を愛する」という挑発的なタイトルとは裏腹に、実は極めて計算された楽曲構成です。

ニック・ロウの知的な遊び心が最も表れた一曲といえます。

② So It Goes

選曲理由:1976年にシングルとして先行発売され、スティフ・レコーズの記念すべき第1号シングルとなった楽曲です。

明快なギターリフと疾走感が魅力です。

短い時間(2分23秒)で、ポップスの要素が凝縮されています。

イントロのギターリフだけで、聴く者を引き込む力があります。

シンプルながら、一度聴いたら忘れられないメロディが特徴です。

ライブでも定番となった理由がよく分かります。

③ Marie Provost

選曲理由:ニック・ロウの作家性が最も表れた、ブラックユーモア満載の一曲です。

実在のサイレント映画女優、マリー・プレヴォストを題材にしています。

彼女は1937年に孤独死し、飼い犬に遺体の一部を食べられたという悲劇的な最期を迎えました。

美しいメロディと衝撃的な内容の対比が、強い印象を残します。

ただのゴシップではなく、ハリウッドの栄光と転落を描いた社会批評でもあります。

この曲こそ、ニック・ロウの真骨頂といえるでしょう。

全収録曲リスト(UK盤オリジナル)

  1. Music for Money
  2. I Love the Sound of Breaking Glass
  3. Little Hitler
  4. Shake and Pop
  5. Tonight
  6. So It Goes
  7. No Reason
  8. 36 Inches High
  9. Marie Provost
  10. Nutted by Reality
  11. Heart of the City (Live)

※US盤『Pure Pop for Now People』では、“Shake and Pop”が”They Called It Rock”に、”Heart of the City (Live)”がスタジオ版に差し替えられ、”Rollers Show”が追加されています。

アーティスト概要

Nick Loweの歴史

Nick Loweは、英国ロック史に欠かせない存在です。

1949年3月24日生まれで、70年代初頭に活動を開始しました。

キッピントン・ロッジを経て、ブリンズリー・シュウォーツに加入します。

彼らは、派手さよりも楽曲を重視する姿勢で知られました。

1976年、運命的な転機が訪れます。

スティフ・レコーズの設立メンバー、ジェイク・リヴィエラとの出会いです。

ニック・ロウは同レーベルのハウス・プロデューサーとして活躍します。

同時に、アーティストとしても作品を発表し始めました。

「So It Goes」が、スティフ・レコーズ記念すべき第1号シングルです。

70年代後半、パンクの台頭と共に注目を集めます。

Elvis Costello初期作品の成功は、その象徴です。

『My Aim Is True』(1977)、『This Year’s Model』(1978)を手がけました。

ダムドの『Damned Damned Damned』(1977)も彼のプロデュースです。

プロデューサーとしての評価も、非常に高いものがあります。

1978年の『JESUS OF COOL』以降、コンスタントに作品を発表します。

1979年の『Labour of Lust』では、最大のヒット曲が生まれました。

「Cruel to Be Kind」は、UK 12位、US 12位を記録しています。

この曲は、もともとブリンズリー・シュウォーツ時代のB面曲でした。

それをリメイクして、見事にヒットさせたのです。

1979年から1981年にかけて、Rockpileとしても活動しました。

デイヴ・エドモンズとの共同プロジェクトです。

ビリー・ブレムナー、テリー・ウィリアムズも参加しています。

パブロックとロカビリーを融合させたサウンドが特徴でした。

1980年のアルバム『Seconds of Pleasure』は高い評価を受けました。

音楽性は、時代と共に変化しています。

80年代はニューウェーブ寄りの作品を発表しました。

『Nick the Knife』(1982)、『The Abominable Showman』(1983)などです。

90年代以降は、落ち着いた作風へと移行します。

『The Impossible Bird』(1994)は、成熟した作風で批評家から絶賛されました。

2000年代以降も、精力的に活動を続けています。

『At My Age』(2007)では、老いをテーマにした楽曲が話題になりました。

グラミー賞にもノミネートされています。

2024年には最新作『Indoor Safari』をリリースしました。

70代半ばにして、なお創作意欲は衰えていません。

それでも一貫しているのは、ソングライティングの質です。

多くのミュージシャンが、彼を尊敬しています。

前に出すぎず、作品を支える姿勢が理由です。

Nick Loweは、裏方と表現者を両立した稀有な存在です。

プライベートでは、カントリー歌手Carlene Carterと1979年に結婚しました。

彼女はJohnny Cashの義理の娘です。

ニック・ロウは彼女のアルバムもプロデュースしています。

1990年に離婚しましたが、音楽的な影響は相互に大きなものでした。

2010年にはデザイナーのPeta Waddingtonと再婚し、現在はロンドン在住です。

主要バンドメンバー(Rockpile期)

  • Nick Lowe (vo, ba, gt)
  • Dave Edmunds (gt, vo)
  • Billy Bremner (gt, vo)
  • Terry Williams (dr)

※本作『JESUS OF COOL』では、Rockpileのメンバーに加え、The Rumourのメンバーも演奏に参加しています。Bob Andrews (key)、Martin Belmont (gt)、Andrew Bodnar (ba)、Steve Goulding (dr)などです。

スタジオアルバム一覧

  • Jesus of Cool / Pure Pop for Now People (1978) – デビュー作にして代表作。パワーポップの名盤。
  • Labour of Lust (1979) – 最大のヒット曲「Cruel to Be Kind」収録。
  • Nick the Knife (1982) – よりニューウェーブ色が強まった作品。
  • The Abominable Showman (1983) – 実験的な要素を含む意欲作。
  • Nick Lowe and His Cowboy Outfit (1984) – カントリー色が強まった時期の作品。
  • The Rose of England (1985) – ロマンティックな楽曲が増えた作品。
  • Pinker and Prouder than Previous (1988) – 80年代後期の集大成的作品。
  • Party of One (1990) – 離婚後の心境を反映した内省的作品。
  • The Impossible Bird (1994) – 音楽性が大きく変化した転換点。批評家絶賛。
  • Dig My Mood (1998) – 落ち着いた大人のロック。
  • The Convincer (2001) – ソウルフルな要素を取り入れた作品。
  • At My Age (2007) – グラミー賞ノミネート作品。老いをテーマにした名盤。
  • The Old Magic (2011) – 円熟の境地を示す傑作。
  • Quality Street: A Seasonal Selection for All the Family (2013) – クリスマスアルバム。
  • Indoor Safari (2024) – 最新作。75歳にして衰えぬ創作力。

筆者の個人的感想

【ポップスの教養を深めたい方へ】知的な遊び心が学べる名盤『JESUS OF COOL』を紹介

『JESUS OF COOL』は、過去の名盤ではありません。

今もなお、音楽の楽しさと知性を教えてくれます。

短く、分かりやすく、それでいて奥が深い。

そんなポップスの理想形が、ここにあります。

パンク全盛の時代に、あえて完成度を選んだニック・ロウ。

その決断が、45年以上経った今も輝き続ける理由です。

流行に流されず、普遍的な価値を追求した結果がこのアルバムです。

CD、配信、LPのどれで聴いても魅力は変わりません。

所有する喜びと、繰り返し聴く価値があります。

2008年のリマスター盤は、特に音質が素晴らしいです。

ボーナストラックも充実しており、決定版といえる内容です。

大人の音楽リスナーにこそ、手に取ってほしい一枚です。

ポップスの奥深さを知りたい方。

知的な遊び心を学びたい方。

この作品は、あなたの音楽体験を確実に豊かにしてくれます。

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きっと、新しい発見があるはずです。

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※2008年リマスター盤がおすすめです。UK盤とUS盤の両方の楽曲に加え、10曲のボーナストラックが収録されています。

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※アナログ盤は、2008年以降の180gリマスター盤がおすすめです。温かみのあるサウンドを楽しめます。

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