1982年、Creation Recordsというレーベルが産声を上げました。
アラン・マッギーが立ち上げたこの小さなレーベルから、The Loftというバンドがシングルをリリースします。それは後に「ジャングルポップ」と呼ばれるサウンドの原型でした。
「Once Round the Fair」は、1982年から1985年までにリリースされたシングルとBBCセッション、未発表曲を収録したコンピレーション・アルバムです。
1989年のリリース時、バンドは既に解散していました。しかし、このアルバムに収められた音源は、80年代中期のUKインディーシーンを記録した貴重なドキュメントとして、今も聴かれ続けています。
本作は10曲、31分20秒です。決して長くはない収録時間の中に、彼らが駆け抜けた3年間が刻まれています。
Once Around the Fair
ジャケットデザイン

音楽スタイル
サウンドは、ギター2本、ベース、ドラムというシンプルな編成で繊細なギターワークとメランコリックな歌詞が特徴です。
ポストパンクの緊張感を引き継ぎながら、キャッチーなメロディを奏でています。
おすすめポイント3選
①Creation Recordsの原点を記録した音源
②録音時期が異なるので音源にバラつきがありバンドの変化を楽しめる
③The Weather Prophetsで活動するPeter Astorの初期作品
Once Around the Fair
アルバム基本情報
作品名:ONCE ROUND THE FAIR
アーティスト名:THE LOFT
発売年:1989年
レーベル:Creation Records
総再生時間:31分20秒
収録曲数:10曲
アルバム紹介
1982年から1985年にかけてCreation Recordsでリリースされたシングル、BBCセッション、未発表曲を集めたコンピレーション・アルバムです。
1989年のリリース時には、バンドは既に4年前に解散していました。本作は、バンドが残した音源を整理し、一つのアルバムとして編集したものです。厳密には「スタジオ・オリジナル・アルバム」ではありません。
収録されているのは、1984年のデビューシングル「Why Does the Rain?」から、1985年の「Up The Hill And Down The Slope」までの音源です。録音時期、スタジオ、音質が曲ごとに異なるため、聴いていくとバンドの変化が分かります。
1985年6月24日、ロンドンのハマースミス・パラディウムでのツアー最終日、ステージ上でバンドが分裂しました。予定されていた「ファースト・アルバム」は制作されることなく、The Loftは解散します。
本作は、その「失われたアルバム」の代わりとして、4年後にリリースされました。
NMEや独立系音楽誌では「80年代インディーポップの金字塔」という評価もありました。しかし、メジャーな成功を収めたわけではありません。本作は、「知る人ぞ知る」作品として、コレクターやインディー音楽の愛好者の間で聴かれ続けています。
Once Around the Fair
おすすめトラック3曲
・Why Does the Rainーバンドのデビューシングルであり、The Loft を象徴する楽曲。ジャングルポップ入門にも最適。
・Up The Hill And Down The Slopeーインディーチャートで注目を集めたキラーチューン。ギターリフも印象的。
・Your Door Shines Like Gold — ポップ/メロディアスな面が強く、インディーファンのみならず広く聴きやすい曲。
収録曲
・Why Does The Rain
・Skeleton Staircase
・Lonely Street
・Your Door Shines Like Gold
・Time
・Winter
・Like
・On A Tuesday
・The Canal And The Big Red Town
・Up The Hill And Down The Slope
バンド概要
1980年、ロンドンでPeter Astor、Bill Prince、Andy Strickland、Dave Morganの4人がThe Loftを結成しました。当初は「The Living Room」という名前でしたが、同名のライブハウスが存在したため「The Loft」に改名しています。
1984年、Creation Recordsと契約し、デビューシングル「Why Does the Rain?」をリリースします。このシングルはインディーシーンで話題となり、The LoftはCreation Records初期の重要なバンドとなりました。
1985年の「Up the Hill and Down the Slope」のリリースで一定の成功を収めますが、同年6月24日、ロンドンのハマースミス・パラディウムでのツアー最終日、ステージ上でバンドが分裂し解散しました。予定されていた「ファースト・アルバム」は制作されることなく、The Loftは活動を終えます。
1989年、Creation Recordsが彼らの初期活動の足跡を振り返る形で「Once Round the Fair」をリリースしました。これが本作です。
Peter Astorはその後The Weather Prophetsを結成し、UKインディーシーンで活動を続けます。
主要メンバー
・Pete Astor – voc/gtr
・Andy Strickland – gtr
・Bill Prince – bass
・Dave Morgan – drums
筆者の個人的感想
このアルバムを聴いて最初に感じたのは、「短い」ということです。31分20秒。10曲。バンドが駆け抜けた3年間が、この時間に収まっています。
「Why Does the Rain?」から「Up The Hill And Down The Slope」まで、録音時期の違いが音質の差として表れています。それは制作意図ではなく、単にコンピレーション・アルバムだからです。
しかし、結果としてバンドの変化を追うことができる構成になっています。
Peter Astorの歌声は、若さと不安定さを持っています。
完成されたボーカルではありません。しかし、その不完全さが、この時期のThe Loftの音楽を特徴づけています。ジャングリーなギターは、後のネオアコ・バンドが目指すサウンドの原型です。
1985年6月24日の解散については、様々な証言があります。しかし、重要なのはその日に何が起きたかではなく、その後「ファースト・アルバム」が作られなかったという事実です。本作は、その「失われたアルバム」を想像させる音源集です。
「80年代UKインディーの名盤」という評価は、後付けです。当時、このアルバムがどれだけ売れたかは分かりません。
しかし、Creation Recordsの初期を記録した音源として、そしてPeter Astorの初期作品として、本作には価値があります。
懐かしむために聴くのか、音楽史を辿るために聴くのか、それは聴き手次第です。ただ、ここに31分20秒の音楽があるという事実だけが残っています。

 
  
  
  
   
    
コメント