
通勤中のイヤホン。休日のカフェ。
いつからか音楽は「ただ流れているもの」になっていませんか。
かつて夜通し聴いた興奮も、歌詞を覚えるほど繰り返した情熱も、どこか遠くへ行ってしまった気がする。
そんなあなたに届けたい一枚があります。
The Delta 72が1996年に発表した『THE R&B OF MEMBERSHIP』です。
わずか31分。12曲。無駄な音は一切ありません。
60年代ガレージロックとR&Bが、90年代インディの硬質さで研ぎ澄まされています。
この作品を聴き終えたとき、あなたは確信するはずです。
「ああ、これだ。この感覚を忘れていた」と。
音楽と真剣に向き合う時間を、もう一度。
ジャケットデザイン

この作品があなたにもたらす3つの体験
① わずか31分で完結する、圧倒的な没入感
現代の音楽は長すぎます。
ストリーミング時代の戦略で、アルバムは70分を超えることも珍しくありません。
でも本作は違います。31分12秒。
通勤時間に聴き終えられる長さです。
それでいて、聴き終えた後の充実感は圧倒的です。
一曲も無駄がない。一秒も弛緩がない。
これは「集中して音楽を聴く」という行為そのものを思い出させてくれる構成です。
再生ボタンを押した瞬間から、あなたは1996年のワシントンD.C.へ連れていかれます。
② 2025年だからこそ刺さる、アナログな熱量
今、音楽はあまりにも「整っている」。
AIがミックスを調整し、アルゴリズムが次の曲を選ぶ。
便利だけれど、どこか物足りない。
この作品には「荒さ」があります。
ファルフィサオルガンの乾いた音色。
ギターの鋭い切れ味。
ドラムの生々しい衝撃。
これは人間が、人間のために、人間の手で鳴らした音楽です。
デジタル疲れしたあなたの耳に、この熱量は確実に届きます。
「音楽ってこんなに生々しかったんだ」と、思い出すはずです。
③ 誰も語らない名盤を「知っている」優越感
正直に言いましょう。
このアルバムは有名ではありません。
同じ1996年には『Odelay』も『Either/Or』も発表されています。
でもだからこそ、価値があるのです。
音楽好きとして、人と違う一枚を持っている喜び。
「これ知ってる?」と聞かれて、自信を持って語れる作品。
Touch and Goというレーベルの系譜を知っている誇り。
あなたの音楽ライブラリに、この一枚が加わるだけで、すべてが変わります。
「ああ、この人は本当に音楽が好きなんだな」と思われる、そんな一枚です。
なぜ今、この作品なのか―2025年視点での再評価

1996年7月9日。
この作品がTouch and Go Recordsからリリースされたとき、世界は大きく動いていました。
オルタナティブロックは商業的な成功を収め、インディは「メジャーへのステップ」になりつつありました。
そんな中、ワシントンD.C.のThe Delta 72は真逆の道を選びました。
彼らが選んだのは「過去への回帰」ではなく「原点への再解釈」です。
60年代のガレージロックが持っていた衝動。
R&Bが持っていたグルーヴ。
それを90年代のインディロックの文脈で、徹底的に研ぎ澄ませました。
中心人物Gregg Foremanは、ギターとハーモニカを担当しながら、荒々しいボーカルで聴き手を挑発します。
Sarah Stolfaのファルフィサオルガンは、単なる伴奏ではありません。
リズムを刻み、メロディを奏で、バンド全体を前へ押し出す推進力です。
そして何より、Jason Kourkounisのドラム。
元Muleのドラマーである彼の参加により、バンドは新たな強度を獲得しました。
跳ねるようなリズムと、容赦ない突進力。
これが本作の骨格を形成しています。
2025年に聴く意味
では、なぜ今なのか。
それは「音楽との距離感」が変わったからです。
ストリーミング全盛の今、私たちは無限の音楽にアクセスできます。
でもだからこそ、一枚のアルバムを通して聴く体験が貴重になりました。
本作は31分という短さで、完結した世界を提示します。
スキップする必要もない。
次のアルバムへ移る必要もない。
ただ、この31分間に身を委ねればいい。
それはまるで、映画を観るような体験です。
短編映画のように凝縮され、余韻を残して終わる。
これが2025年に必要な音楽体験なのです。
LP vs CD ―あなたに最適なフォーマットはどっち?

「この作品を手に入れたい」と思ったあなたへ。
最後の問題は「どの形式で買うか」です。
本作は現在、CD、LP(アナログ盤)、デジタルの3形式で入手可能です。
それぞれに明確な「向いている人」がいます。
| 形式 | こんな人におすすめ | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| LP(アナログ盤) | 音楽を「儀式」として楽しみたい人 ジャケットを飾りたい人 コレクション性を重視する人 | ・温かみのある音質 ・30cm四方の大判ジャケット ・針を落とす瞬間の緊張感 ・所有欲が満たされる | ・プレーヤーが必要 ・価格が高め(3,000円〜) ・取り扱いに注意が必要 |
| CD | すぐに聴きたい人 車でも楽しみたい人 手軽さを重視する人 | ・クリアで正確な音質 ・価格が手頃(1,500円〜) ・入手しやすい ・保管が簡単 | ・所有感はLPに劣る ・ジャケットサイズが小さい ・プレーヤー所有者減少中 |
| デジタル | とにかく今すぐ聴きたい人 物を増やしたくない人 | ・即座にアクセス可能 ・場所を取らない ・価格が最も安い | ・所有感ゼロ ・ジャケットを眺める楽しみがない ・配信停止のリスク |
迷ったらこれ:私の結論
もしあなたがレコードプレーヤーを持っているなら、迷わずLPです。
理由は単純。この音楽は「アナログで聴くべき」だからです。
オルガンの揺らぎ。ギターの歪み。ドラムの衝撃。
これらはすべて、アナログ盤で聴いたときに最も活きます。
針を落とし、A面が終わったら盤を裏返す。
その「間」が、音楽との対話を生むのです。
プレーヤーを持っていないなら、CDを選んでください。
デジタル配信でも聴けますが、「所有する」という行為には意味があります。
手元に置くこと。棚に並べること。ジャケットを眺めること。
それが音楽への愛情を育てます。
聴くべき3曲―この作品の核心
① Introduction
1分にも満たない導入曲です。
でもこれが、すべてを決めます。
静かに立ち上がるオルガン。
徐々に熱を帯びるリズム。
「これから何かが始まる」という予感が、全身を駆け巡ります。
映画のオープニングシーンのような緊張感。
この1分間で、あなたは1996年のライブハウスへ連れていかれます。
② On the Lam
アルバム序盤のハイライトです。
ギターとオルガンが激しく絡み合い、ドラムが容赦なく突き進む。
これぞガレージロック。
でも単なる「勢い任せ」ではありません。
計算されたグルーヴがあり、リズムには明確な意図があります。
聴き終えた後、自然と体が動いているはずです。
これが音楽の「身体性」です。
③ On the Rocks
バンドの代表曲であり、本作の真髄です。
重心の低いグルーヴが、聴き手を地面に引きずり込みます。
R&Bの持つ「重さ」と、ガレージの持つ「荒々しさ」が完璧に融合しています。
これは90年代にしか生まれ得なかった音楽です。
この曲を聴いて何も感じないなら、もうこのアルバムは必要ありません。
でも、もし心が動いたなら。
あなたはこの作品を一生手放せなくなります。
全収録曲リスト
- Introduction
- On the Lam
- Rich Girls Like to Steal
- Satellite
- Get Down
- It’s All Over
- Frigid
- On the Rocks
- 7 & 7
- Capitol Contingency
- Trick Baby
- Hustler
総再生時間:31分12秒
The Delta 72 ―知られざる歴史とその系譜

1994年夏。ワシントンD.C.。
この街は、ハードコアパンクの聖地として知られていました。
Fugazi、Minor Threat、Bad Brains。
攻撃的で政治的で、妥協を許さない音楽の街。
そんな中、The Delta 72は異端でした。
彼らが鳴らしたのは、60年代のガレージロックとR&Bです。
パンクではない。ハードコアでもない。
でも、その精神は確かにD.C.シーンの血を引いていました。
結成と初期の活動
バンドの中心人物は、Gregg Foremanです。
彼は単なるミュージシャンではありませんでした。
60年代のガレージロックを研究し、R&Bのグルーヴを解析し、それを現代のバンド編成で再構築しようとした音楽学者でもありました。
彼が選んだ武器は、ギターとハーモニカ。
そしてSarah Stolfaが弾くファルフィサオルガン。
この楽器の選択が、バンドの個性を決定づけました。
ファルフィサは、60年代に多用された小型オルガンです。
The Doorsも使っていました。
乾いた、どこか不穏な音色。
これが、バンドの核となるサウンドを形成しました。
Touch and Goへの移籍
1996年、バンドは重要な決断をします。
Touch and Go Recordsへの移籍です。
このレーベルは、アメリカのインディロックシーンにおいて特別な位置を占めていました。
Big Black、Shellac、The Jesus Lizard、Slint。
妥協しない音楽。商業主義への抵抗。アートとしてのロック。
The Delta 72は、このレーベルで初めて本格的なアルバムを発表します。
それが本作『THE R&B OF MEMBERSHIP』です。
Jason Kourkounisの参加
本作において最も重要な要素が、ドラマーの変更でした。
Jason Kourkounisの参加です。
彼は元々、Muleというバンドでドラムを叩いていました。
Muleは、ブルースロックとハードコアを融合させたバンドです。
つまり彼は、ブルースのグルーヴとハードコアの強度、その両方を理解していました。
彼のドラムは「正確」です。
でも「機械的」ではありません。
跳ねるリズム。容赦ない突進力。そして、グルーヴを生み出す絶妙な「間」。
これが本作に、他の90年代ガレージロックにはない「タイトさ」を与えました。
レコーディングと音作り
本作のレコーディングは、Touch and Goらしい「ローファイ」なアプローチで行われました。
過剰なエフェクトはありません。
過剰なミックスもありません。
ただ、バンドがライブで鳴らす音を、そのまま録音する。
これが結果的に、2025年の耳にも新鮮に響く理由です。
現代の音楽は「作り込まれすぎている」。
でも本作は違います。
生々しく、荒々しく、でも確かにそこに「人間」がいる。
その後の展開
本作の後、バンドは2枚のアルバムをリリースします。
『The Soul of a New Machine』(1997年)。
『000』(2000年)。
どちらも評価されましたが、本作ほどの衝撃はありませんでした。
なぜなら本作は「初めて」だったからです。
初めてTouch and Goから発表された作品。
初めてJason Kourkounisが参加した作品。
初めてバンドの方向性が明確になった作品。
その「初めて」が持つエネルギーが、31分12秒に凝縮されているのです。
メンバー構成(本作時)
Gregg Foreman – Guitar, Harmonica, Vocals
バンドの中心人物。60年代ガレージへの深い理解と、現代的なロックへの翻訳能力を持つ。
Sarah Stolfa – Farfisa Organ
バンドの個性を決定づけるオルガン奏者。リズムと和声の両方を担当し、バンドサウンドの核となる。
Kim Thompson – Bass, Vocals
重厚で正確なベースラインで、バンドの土台を支える。時折見せるボーカルも魅力。
Jason Kourkounis – Drums
元Mule。本作から参加し、バンドに新たな強度とタイトさをもたらした。
ディスコグラフィー(スタジオアルバム)
The R&B of Membership (1996年)
本作。Touch and Go移籍後の第一作。
The Soul of a New Machine (1997年)
よりヘヴィで攻撃的な作風へ。
000 (2000年)
最終作。実験的な要素が増した意欲作。
影響と系譜

The Delta 72は、決してメジャーなバンドではありませんでした。
でも、彼らが示した「ガレージとR&Bの融合」は、その後のバンドに影響を与えました。
特に2000年代のガレージロック・リバイバル。
The White Stripes、The Black Keys、The Dead Weather。
これらのバンドが提示した「ブルースとガレージの交差点」は、The Delta 72がすでに1996年に示していたものです。
また、Touch and Goというレーベルの系譜においても重要です。
このレーベルは「商業主義に抵抗するインディロック」の象徴でした。
The Delta 72は、その思想を体現しながら、独自の音楽性を追求しました。
つまり彼らは「橋」だったのです。
60年代のガレージロックと、90年代のインディロックをつなぐ橋。
D.C.ハードコアシーンと、Touch and Goの音楽思想をつなぐ橋。
そして、20世紀の音楽と、21世紀のガレージリバイバルをつなぐ橋。
その橋を最も鮮やかに架けた作品が、本作なのです。
個人的感想とまとめ ―音楽と向き合う時間を取り戻すために

正直に言います。
私がこのアルバムに出会ったのは、2010年代後半でした。
リリースから20年以上経っていました。
でも、再生ボタンを押した瞬間、すべてが変わりました。
それまで私は、音楽を「消費」していました。
ストリーミングで次々と曲を流し、「いいね」を押し、プレイリストに追加する。
それは「聴いている」のではなく「通り過ぎている」だけでした。
でもこのアルバムは違いました。
31分間、スキップできませんでした。
いや、スキップする必要がなかったのです。
一曲一曲が、明確な意図を持っていました。
無駄な音がありませんでした。
そして何より、音楽が「生きていた」のです。
オルガンの揺らぎ。ギターの鋭さ。ドラムの衝撃。
それらが、私の鼓膜ではなく、胸に直接響きました。
これが「音楽と向き合う」ということなんだ、と思いました。
あなたにとっての意味
もしあなたが、音楽に対して「なんとなく物足りない」と感じているなら。
もしあなたが、昔のような情熱を取り戻したいと思っているなら。
もしあなたが、「ちゃんと聴く」という行為を忘れてしまったなら。
この一枚が、あなたを変えます。
それは大げさではありません。
31分間という時間が、あなたの音楽との関係を修復します。
この作品を聴き終えた後、あなたは他のアルバムも「通して聴く」ようになるはずです。
一曲一曲を「味わう」ようになるはずです。
そして、音楽が再び「特別なもの」になるはずです。
どうやって聴くべきか
私からの提案です。
まず、時間を作ってください。
31分だけで構いません。
スマホは遠くに置いてください。
通知は切ってください。
そして、再生ボタンを押してください。
できればヘッドホンで。
できれば夜に。
できれば一人で。
この31分間は、あなただけの時間です。
誰にも邪魔されない、音楽との対話の時間です。
聴き終えた後、何かが変わっているはずです。
それは「音楽への向き合い方」かもしれません。
それは「自分自身への向き合い方」かもしれません。
でも確実に、何かが変わります。
最後に
この作品は、有名ではありません。
チャートを賑わせたこともありません。
でも、それでいいのです。
すべての名盤が有名である必要はありません。
あなたにとっての「特別な一枚」があればいい。
そしてこの作品は、その「特別な一枚」になる資格があります。
31分12秒。
12曲。
1996年のワシントンD.C.から、2025年のあなたへ。
失われた衝動を、取り戻してください。
音楽と向き合う時間を、取り戻してください。
その最初の一歩が、この作品です。
LP盤:現在アマゾンで販売しておりません。
CD盤:ザ・R&B・オブ・メンバーシッ



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